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No.1 インタビュー:林 望さん(作家)
定年後の未来は不定形。だから無限の可能性がある。

プロフィール

林 望さんはやしのぞむ。1949年、東京生まれ。作家、書誌学者。慶応義塾大学大学院博士課程修了。専攻は日本書誌学、国文学。英国ケンブリッジ大学客員教授。東京芸術大学助教授を経て、現在、著述業専業。『イギリスはおいしい』で日本エッセイストクラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』で国際交流奨励賞を受賞。『知性の磨き方』(PHP出版)、『東京坊っちゃん』(小学館)、『すらすら読める土佐日記』(講談社)、『帰宅の時代』(新潮社)など著書多数。詩作、声楽コンサート、料理などでも「自分らしさ」を表現。

僕はとても忙しく暮らしていて、毎日、全力疾走状態です。好きでやっていることなので、今はそれでいいのですが、もし70歳を過ぎても元気で、そして少しばかりお金が貯まっていたら……目が覚めたら「さあて、今日はなにをしようかな」なんて考えるくらい、予定のない毎日を送ってみたいものですね。たまに俳句ひねったりしながら。 

老後、なんていうとネガティブなイメージでとらえられがちですが、考え方しだいで夢多き将来になるものです。誰にだって好きなことはあるでしょう。60歳から始めた趣味がいつの間にかプロ顔マケ、ってことだってあるかもしれません。将来は不定形。あらゆる可能性を秘めています。そういうと「なにか趣味を探さなくては」って頑張ってしまう人がいるけれど、それじゃあ会社にいるときと同じです。自然発生的に好きだと思えること、興味のあることを、好きなだけすればいい。ただのんびりしたいっていうのだって、オーケー。あくまでも自分らしく、自分の生活を楽しむことができればいいのです。

家庭は居心地いいですか?

ただ、そのためには準備が必要ですね。個人の生活を大事にするためには、その基地となる家庭を居心地のよい場所にしておくこと。日本のビジネスマンは、これまであまりにも家庭をないがしろにしてきたのではないでしょうか? 

生活の基点は会社。だから、もっともリラックスする場所であるはずの家には自分の居場所がなく、たまに家族揃って食事をしてもしっくりこない。いけませんねえ。終身雇用の時代は終わった、なんていわれていても、まだ「寄らば大樹の陰」みたいな考え方も残っています。そういう考え方でいる人は会社を辞めて、肩書きというつっかい棒がなくなると、どうしていいのかがわからなくなる。でも会社という大きな車に乗ってハイウエイを突っ走るような生き方をしていた人も、いずれは車を降りて自分の足で歩かなくてはなりません。そうなったときに困らないためにはなにをしたらいいのか——。

夫婦仲よく、でもお互いに寄りかかってはダメ

これが案外、簡単なんです。家に帰りましょう! 家でなにをするかって?おしゃべりするんです。まずは奥さんと。こんなこというと「よおし!話をするぞお」って張り切っちゃう人がいますが、張り切らなくてけっこう。夕日がきれいだったとか、野菜が安かったとか、他愛のない話でいいんです。子どもの話もいい。僕は最初に述べたように仕事好きで忙しい。それなのに声楽もやったり、絵を描いたりもしています。でも、たいてい毎日料理を作って妻と食べ、一緒に散歩をしたり、買いものをしたりしながら、ずっとおしゃべりをしています。いちばんリラックスして話ができる相手ですから、それだけで心が癒されるんですね。 

ただし、どんなに仲がよくても寄りかかってはいけない。夫婦といえど、お互いに自立し、アイデンティティを認め合い、プライバシーを尊重すること。自分が家にいるときに奥さんが出かけるのが気に入らない、どこに何をしに行くのか気になる、という男性がいますが、それは結局、寄りかかる対象が会社から奥さんに移行しただけ。奥さんも子どもが大きくなったら女性としての自分の顔を取り戻しましょう。自分の価値観を大事にして、今、自分にとってなにが大切か、なにが欲しいのか考える。自分らしい生き方はそこから生まれるのだと思います。

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